正源宗之の雑歌詩集

私が詩と出会ったのは今から半世紀以上前二十歳前後だったと記憶している 時を経てまた 思いつくまま気の向くままに 趣味の一つとなりし事 幸いと思う

叫び

この詩を見つけた時の気持ちを言葉に表現することができません
まさしく家の座敷を感じ、奥の間と呼ぶ間の縁側のサッシが開いている
掃除機をかけているのは私だ
父が病院から帰ってくる準備をしている
家には私ひとりだ
父よあなたはいつもの寝間にもう帰っていたのか?
もうすぐ父が返ってくる
急がねば涙を流す事さえ後回しにして
私は父の眠る布団の準備をしていたのです
そんな情景を思い浮かべてお読みいただけるとうれしいです
ではお読みください

『叫び』です




座敷の方が何だか騒々しい 早朝だというのに
ヒソヒソ話を打ち消すかの様に掃除機の音が聞こえる 何だろう
しばらくすると表に車の止まる気配がした
そして何かを運び入れた
そうか座敷の調度品でも買ったのかも知れない
その為に掃除をしていたのだろう それなら合点もいく
組み立てが始まったらしい?
何だあれは? 祭壇じゃないか 棺も運び込まれている
一体誰が死んだんだ 随分と変だ
しばらくして五、六人の人が私を抱きかかえて棺に運び込もうとしている
おい何をするんだ やめてくれ 私を死人にするのか 殺人だぞ
私は叫び声を上げた だが全く無視された
聴こえないのか 殺人行為だぞ 声にならない声を出しつつも私は棺に入れられた
蓋を閉められた そうか私は二、三日前病院に担ぎ込まれたが
私の眠っている間に死亡診断書が書かれたに違いない
だとすれば殺人者は医者だ 死体遺棄も行われるに違いない 絶体絶命
先程からの読経の声もやんだ 再び棺の蓋が開かれ私の身体は菊の花でうづもれた
ユリの花もあった カスミ草もあった
花の香りにつつまれて私は赤い炎の向こうの世界に行くのだ
もう現世に未練はない
やれ健康保険料だ それ介護保険料だと金を取る事ばかり考えている現世
私は介護なんか ろくたま受けた覚えなんかないのに
あの世に行けば まさか健康保険料も取るまい介護保険もなかろう
地獄へ行くか極楽へ行くかは知らないが 一応閻魔様に袖の下を使ってみよう
六文銭をはたいて もしかして極楽へ行けるかも
あの世で殺人並びに死体遺棄罪で告発します

   では皆さんさようなら

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20年近く前に父はこの詩を書いたのか!
父は入院中家に帰りたかったのだと思います
医者が帰らせないと言ったなら警察に言ってくれと兄に言ったそうです
正気か認知が言わせたことなのか?
病状を考えたらそれは叶えられませんでした

後に1泊帰宅したことと
父よ貴方が抱かれた花はちょっと違っていたでしょう
お花だけはいっぱいに私たち家族から最後の貴方への贈り物
貴方が言ったとおりユリの花と色とりどりの蘭の花と
バラの花もあったでしょう
菊の花がほとんどない祭壇を私は初めて見ましたよ
花いっぱいに抱かれた貴方の姿を私たち家族は忘れることはありません
貴方の詩歌には花が何度も出てきますね

けっこうぼやきだった父は介護保険が始まった時には納得できなかったのでしょう
晩年には要介護4でお世話になることは予想だにしなかった
皆そうです
はっきりと自分の晩年が見える人など誰もいない
老いては子に従えと言うけれど
最後に老いることを学ばせてくれました

六文銭?入れることはできなかったけれど
閻魔様も美しいお花好きですよね